事件を振り返って


●『踏み間違えに気づかずにアクセルペダルを踏み続けるという運転操作のミスは、
飲酒していない運転者でも犯し得るミスであるから、そのような運転操作の誤りが、
アルコールによる正常な運転が困難な状態にあったことに直ちに結びつくものではない』
(大阪高裁・西田眞基裁判長)

 これを読んだ河本さんは、さらに大きなショックを受けたといいます。

「結果的に高裁も、飲酒運転は認めながら、事故に飲酒の影響はなかったというのです。
これまで多くの遺族の方々が飲酒事故の危険性を訴え、法律まで変えてきたというのに、
なぜ裁判所はこのような判断ができるのか……、愕然としました」

救護も救急への通報もしていなかったのに・・

 さらに、河本さんは「救護」についての事実認定にも納得できないといいます。
地裁、高裁の判決文には、それぞれこう書かれています。

●『被告人は事故直後に本件車両を降りて被害者が倒れている方へと走り寄り、
A(同乗者の一人)にも救急車を呼ぶように頼むなどその場に応じた行動をとっていた』(大阪地裁判決より抜粋)

●『被告人は、事故後に彼害者らのもとにすぐに駆け寄り、声をかけるなどし、
救急車を呼ぶため携帯電話を取りに本件車両に戻ったり、パニックになっているAらに対して、
被害者に声をかけるように指示したりするなど、事故後適切さを欠くことのない相応の行動をとっているといえる』
(大阪高裁判決文より抜粋)

 しかし、河本さんはこう指摘します。

「実は、この事故で受傷された外国人の男性は、自身も怪我を負いながら、頭から血を流して倒れている恵果に駆け寄って
脈を取り、めくれたスカートを直し、近くの店から110番通報をしてくださいました。
被告が車から降りてきたのはそれからしばらく経ってからで、背後から一度だけ『大丈夫?』と声をかけてきたので、
『大丈夫じゃないよ!』と答えると、その後は、車の後ろ側に座り込んで何もしてなかったと証言されています」

 事故から5日後に取られた調書には、それを裏付けるかのような被告の供述が記録されていました。

<被告の供述調書より>「警察に捕まる」と思った次の瞬間、私は(同乗者の)AとBに、
「ごめんね、私が悪いから、二人とも逃げていいから、どっか行って」と言いました。
つまり、私が飲酒運転をしていることは二人とも知っていて一緒に乗っていたのだから、
二人ともこの場に残っていたら、私と一緒に警察に捕まって人生が終わってしまう。
(中略)これ以上の迷惑はかけれない。
その後、AとBは車から降りたのは間違いありません。
しかし、助手席のドアはビルにぶつかって開かなかったと思うので、たぶん後部席から降りていると思います。

(*被告の車は左ハンドル)

 この供述を見る限り、被告は事故直後、被害者の救護より同乗者を逃がすことを一番に考えていたことがわかります。

 河本さんは言います。

「また、被害者の男性の証言によると、2人の同乗者は遠く離れたところから見ているだけで、
携帯も手に持っていなかったそうです。
救急車を呼んだのも彼女たちではありません。それなのになぜ、裁判官は
『適切さを欠くことのない相応の行動をとっている』と認定したのでしょうか


加害者の供述変遷はどこまで許容されるのか

「先日、柳原さんが取材された『両親死傷の瞬間とらえたドライブレコーダー 
法廷で蛇行・逆走シーン流れるも、被告は「記憶にない」』

という記事を読みました。この事故の被告も公判開始後、
事故直後の供述内容を大きく変えており、非常によく似ていると思いました。
うちの場合は訴因変更されたことで裁判員裁判になり、
結果的に『統合調書』といって一部の調書しか表に出なかったので、
裁判員も判断が難しかったのかもしれません。
でも、そもそも事故直後の供述をここまで変えてもよいのか、疑問を感じざるを得ませんでした」

ちなみに、一審の裁判官は被告の供述変遷についてこう述べています

●『変遷があるがために被告人の公判供述が信用できないとは言えない』(大阪地裁判決文より)


 たしかに、供述調書が100%正しいとは言いきれないケースもあります。
実際に、警察や検察の強引な取り調べで不本意な供述調書を取られ、冤罪を訴える被害者がいるのも事実です。
しかし、本件の場合、飲酒運転で暴走し、その結果、死亡事故が起こったことは事実です。
大きく翻った供述をもとに、一連の行為を「悪質ではない」と評価すれば、
飲酒運転厳罰化の根底が揺らいでしまうのではないでしょうか。
真実はひとつのはずです。

 河本さんは悔しそうに語ります。


「そもそも、悪質ではない飲酒運転などあるのでしょうか。
何の罪もない人の命が奪われているのに、『特別重いとまでは言えない』なんて……。
遺された遺族の心もあの判決に殺されたようなものです。
まさに『司法』ではなく『死法』です。とにかく、危険運転致死傷罪は認定のハードルが高すぎます。
結果的に、生きている者の言い分だけが通ってしまったこの判例が、
今後、悪い方向に使われないか、私はそれが心配でたまらないのです」


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2026年3月25日
【これでいいのか危険運転②】そもそも呼気検査の数値は正しいのですか? 飲酒暴走で娘亡くした母の訴え
(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース

【これでいいのか危険運転②】
そもそも呼気検査の数値は正しいのですか? 飲酒暴走で娘亡くした母の訴え

 飲酒や赤信号無視、大幅な速度超過……、「過失」とは言えない悪質な交通事故に厳罰化を求める声が高まり、
2001年に新設された「危険運転致死傷罪」。その後、数回の法改正を経て、
法制審議会はこのたび、アルコールについての数値基準を「呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上」、
速度については「一般道/制限速度を50キロ超過、高速道路/60キロ超過」といった改正案を取りまとめました。
そして3月24日、自民党法務部会はこの案を了承。政府は今国会に「自動車運転処罰法」の改正案を提出する予定です。

 しかし、こうした数値基準について、一部の被害者遺族からは疑問や反論、提言の声が上がっているのも事実です。
今回の法改正が実態に即したものとなり、危険運転の抑止力につながることを願いつつ、
このシリーズでは、筆者のもとに寄せられている、被害者遺族の体験に基づく「肉声」を順次取り上げていきたいと思います。

 第2回は、24歳のご長女を飲酒逆走による暴走事故で亡くされたお母様に語っていただきました。

【河本友紀さん/大阪府在住】)

<河本さんの訴え>

 危険運転致死傷罪のアルコールの数値基準を「呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上」にする? 
本当にそんな改正を推し進めるつもりなのでしょうか。

 私たち飲酒事故の遺族は、数値基準化について法制審議会にそれぞれ意見書を提出していたのですが、
今回取りまとめられた「改正案」を見て、全く聞き入れられていないのではないかと感じました。

 確かにアルコールが0.5ミリグラム以上出れば、即「危険運転」になるのかもしれません。
しかし、危険運転致死傷罪において、もしこの数値基準が適用されたらどうなるでしょう。
悪質な飲酒運転によって死傷者が出ても、おそらく多くの事案が「過失」として扱われるでしょう。
そして、「事故に酒の影響はない」などといった加害者の供述がまかり通り、公判を維持することが難しくなると思います。
これでは「厳罰化」どころか、明らかに「寛刑化」になってしまいます。  

本連載の第1回(【これでいいのか危険運転 (1) 】息子の命奪った酩酊犯は飲酒検知すらされず… 90歳父の悔恨)で、
息子さんを亡くされたお父さまがおっしゃっていたように、私も、飲酒して運転すること自体が犯罪であり、
数値や酔いの程度の問題ではないと思っています。
0.5ミリグラムといった数値基準を設けるのではなく、今ある法律を噛み砕いた「指針」のようなものを作り、
裁判官による判断の当たり外れが出ないようにしていただきたいのです。

■現場の警官によって、勝手に「下方修正」された検知結果

 まず、警察がおこなっている呼気アルコール検査の数値は、本当に正確なのでしょうか? 
私にはそうは思えません。

 娘の命を奪った加害者は、25歳の女でした。
直前まで近くの居酒屋で仲間と酒を飲み、泥酔していたにもかかわらずハンドルを握りました。
そして、駐車場から出ようとしたとき、車止めに乗り上げましたが、ブレーキをかけず、
そのままアクセルを踏み続けて一方通行を逆走し、友人と自転車で走行中だった娘の恵果をはねたのです。

 

 刑事記録を確認したところ、事故から30分以上たった午前4時19分、
加害者に呼気検査がおこなわれていました。

結果は「呼気1リットルあたり0.25ミリグラム」ということで、現場から無線で報告されていました。
ところが、3分後の4時22分には、「0.2」になっていたのです。

 以下はその報告書の現物です。『0.25 4:19』という文字の上に無造作に傍線が引かれ、
そのすぐ上に『0.2 4:22』と書き直されているのがわかります。

 なぜこんなことが起こったのか……、その理由を確認したところ、検知管の着色の境界線が読み取りにくかったらしく、
あろうことか『無難な線』ということで、数値を0.05ミリグラム少なくし、下方修正したというのです。

 あまりにいい加減で、ずさんです。

■警察官がマークシールの使用方法を間違えていたことも発覚

 検察官によれば、アルコール検知のガラス管の中の色は時間の経過とともに変色するとのこと。
そこで、後の補充捜査で検察官が現物を確認したところ、
本来は境界線に貼るはずのマークシールが全く違う場所に貼られており、
そもそも担当警察官がシールの使用方法を間違えていたことも発覚しました。

 呼気検査で検出された数値は、その後の刑事裁判で加害者の「酔いの程度」を示す重要な客観証拠として扱われ、
その数値が低ければ、飲酒が運転に影響したことを示す証拠が弱くなります。

その重要な証拠が、このように現場で簡単に書き換えられることが実際にあるということを、
審議会の方々はご存じなのでしょうか。

ちなみに防犯カメラの映像には、加害者の女がコンビニでビールを買って
飲みながら駐車場へ向かう様子が映っていました。

さらに、車内用のスリッパを履いたまま再度コンビニへ行き、そこで購入した
熱湯入りのカップ麺を頭上に掲げながら駐車場に戻っている姿も記録されていましたが、
加害者自身は、現場検証時に自分がどこのコンビニに立ち寄ったかすら記憶していませんでした。

こうした状況から、事故時にはなり酔っていたことがうかがわれ、検察官もその点を重視していました。

 しかし、呼気検査の数値は現場の警察官によって、
『0.25ミリグラム』から『0.2ミリグラム』に引き下げられていたため、
補充捜査が行われ、取り調べた察官にも調書を取ったところ、
呼気アルコール濃度は『0.25ミリグラム近く』だったことを認めました。

 その後、刑事裁判の途中で、本件は「危険運転致死傷罪」に訴因変更され、裁判員裁判となったのですが、
最終的には危険運転が認められず、「過失」による事故だったということで判決が下されたのです。

■呼気だけでなく、血液検査も必須にすべき

 そもそも呼気検査では薬物は検出できません。
覚せい剤やさまざまな薬物使用による悪質な事故も危険運転に問えるよう、
曖昧な呼気検査だけでなく、血液も採取し検査することが必要です。

 私は看護師なのですが、医療現場では血糖値を測るため指先から血液を採取する簡易な器具等を使っています。
たとえば、そのような器具で血中アルコール濃度を測定できるものを開発し、加害者本人に使用させれば、
血液を採取するためにわざわざ令状を取らなくても済むのではないでしょうか。
国が本気で力を注げば、簡易検査器具の開発ができないはずはありません。

 呼気検査は息の吹き出し方で数値が変化すると言われていますし、検査前に何か口に含めば検査に影響を与えかねません。
ですから、人身事故発生時には「呼気検査」だけでなく、正確な数値が分かる「血中アルコール濃度」も検査し、
誰が見ても正確な数値を一目瞭然で読み取ることができる方法にすることが先決だと強く思います。

 とにかく、飲酒運転に呼気アルコール検査の数値基準を設定する前に、
まずは初動捜査において、正確な数値を検出できる方法に見直すべきです。

その上で、飲酒をしてハンドルを握った運転者には相応の処分が実現されることを求めます。

【事故DATA】

●発生日時/2015年5月11日

●事故現場/大阪市中央区・アメリカ村

【事故概要】

 加害者の女(当時25歳)が、飲酒することを承知のうえで、
購入したばかりのアメリカ車を運転し、飲食店で友人らと飲酒。
さらに、帰宅するため駐車場に向かう途中にもコンビニで酒を購入し飲酒。

 友人女性2人を乗せ、自車を駐車していたコインパーキングから道路へ出る際、
一旦停止を怠って一方通行を逆走。

自転車で帰宅途中だった河本恵果さんをはね、恵果さんの友人女性と
もう1名を巻き込み、隣接する雑居ビルに突っ込んだ。

 恵果さんは、外傷性くも膜下出血、両側多発頭蓋底骨折、脳挫傷、他全身骨折等 でほぼ即死。
友人は左前腕骨折、他全治6か月~1年の重傷を負った。

 加害者の呼気からは、当初1リットル当たり0.25ミリグラムのアルコールが検出された
との報告がなされたが、3分後、0.2ミリグラムに修正。

大阪地検は加害者の呼気アルコールの数値(0.2ミリグラム)について、
「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥っている」と立証するには乏しいと判断。

アクセルとブレーキの踏み間違いによる「過失」として、
罰則の軽い「自動車運転刑罰法違反(過失運転致死傷罪)」で起訴した。

 しかし、加害者が2リットル近いアルコールを飲み、一方通行を逆走していること等から、
遺族は「危険運転致死傷罪」での処分を求めて署名活動を開始。

大阪地検に17万筆を超える署名と上申書を提出。
その後、補充捜査がおこなわれ、初動捜査にあたった察官にも調書を取ったところ、
実際の呼気アルコール濃度は『0.25ミリグラム近く』だったことが認められた。

 その後、本件は「危険運転致死傷罪」に訴因変更され、2016年10月から裁判員裁判が行われたが、
加害者は法廷で「事故原因はブレーキとアクセルの踏み違い」であると主張。
同年11月、大阪地裁は、加害者の法廷での供述を認め、
事故原因は飲酒の影響(危険運転)ではなく、操作ミス(過失)であるとし、
懲役3年6月(未決勾留日数中360日を算入)を下した。

 2017年10月5日、大阪高裁は検察側の控訴を棄却したため、
遺族は高検、最高検に上告を求めたが、同年10月18日、加害者の刑が確定。

 発生から11年目となる現在も、加害者と2人の同乗者(内1名は警察官の妻)からは、未だに謝罪はないという

【これでいいのか危険運転⑧】
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