死因究明
何より辛い『子供の死の瞬間』の検証
美紗は8時42分、呼吸器が外され14歳の短い生涯を終えました。
呼吸器が外された時、美紗の前歯が無い事に気付きました。
でも顔には小さな傷が2箇所・・・
腫れ上がっている箇所も全く無かったのでとても違和感を覚えました。
「事件性が無い」として司法解剖は行われていない。
聞かされていた美紗の死因は、脳挫傷と外傷性ショックということだけでした。
物証から様々な事実を見つけても、「なぜ死んだのか」はわからない。
私たちは事件から4ヵ月後、美紗の救急救命に当たった医師の元を尋ねました。
刑事裁判になるまで被害者は捜査資料は見ることが出来ない。
路面に這い蹲り、痕跡を探す。
加害車両を徹底的に調べる。美紗の自転車も・・・・・
事件当時着用していた美紗の衣服も・・・・泣きながら調べた。
いやでも身に付いてくる自動車工学の知識。
脳外科・法医学の知識(法医学はかなり精神的に苦しい。)
消防署へ当時の状況の聞き取りと情報開示請求、
病院のカルテ、レントゲン、CTの開示請求、
目撃者探し
(事故後に現場を見た、通ったという人全てに現場に来てもらい状況の説明)
CTの見方も勉強。そしてカルテの解読・・・
ある程度の状態を作ってから、鑑定(意見書)などを依頼しなくてはならないから。
起訴までの間に行った鑑定等は5つ。
全てが子供の死の検証・・・・・死の瞬間の検証だった。
平成16年1月16日
事件当日にある程度の説明があったらしいが、私の記憶には全くありませんでした。
医師から告げられた美紗の状況・・・
・レベルⅢという重篤な状態。心肺停止状態。
・瞳孔が5mm開いていた
・両耳出血、髄液漏洩がすごかったが、頭部外傷が見られなかった。
・四肢・骨盤骨折は認められなかった。
・びまん性広範囲脳障害の可能性
・側頭骨から頭蓋底骨折(局所的ではないもの)
・右鎖骨の骨折がある。
それでも、必死に生きようとした美紗は、一時30まで脈がふれたそうです。
そして、はじめて見たCT・・・主人が重大な事を見つけました。
側頭骨の骨折・・・それは右ではなく『左』であるという事実。
美紗の死因が『左側頭骨の骨折』という回答書を医師に書いてもらい、検察庁へ提出
しかし、検事はその事実に全く耳を貸さないどころか
「警察の捜査の内容を変えると、公判維持できない」
として、右から横断中にはねられた事として起訴しました。
右からはねられてはいないと裏付ける資料は、全て隠蔽されました。
美紗の検視写真を見ると決める・・・
裁判が始まり謄写できた資料の中に1つ、封筒に入れられたものがありました。
美紗の検視写真でした。
封筒に入れてくれたのは、弁護士さんの気遣い・・・・・
とてもみる気になれず、そのまましまっていました
ずっと封筒にしまわれていた検視写真を見る事で何か新しい事実がわかるかもしれないと
見る決心をしました。主人には
「あなたは見ないほうがいい。共倒れになったら困る。私が決めた事だから私が見る」
と告げ、封筒を開けた瞬間
あの悪夢のような日が蘇り、身体は震え、涙が止まりませんでした・・・
「美紗ごめんね・・」と写真を擦りながら、
美紗の身体に遺された傷を一つ一つ見ていきました。
そして美紗は右からはねられていないと確信し、また写真を封筒にしまいました。
「死んでしまった」という事実は変わらない。
車にはねられた事実も変わらない。
それでも、知りたいのが、「死」の真相です。
知っても現実は変わらないでしょといわれたこともありますが
「どこを」「どのように」「どうなった」
それを知らなければ、事件の事実も、
美紗に一体何が起こったのかを明らかには出来ないのです。
変わってはあげられないけれど、美紗の傷をひとつ見るごとに
美紗の痛みを共有してあげることが出来るような気がします。
美紗の傷の一つ一つを知ることで、私も苦しみます。
でもそれしか美紗の痛みをわかあってあげられないのです。
法医学教授に鑑定を依頼
美紗の検視写真とCT,レントゲン写真を見てもらいましたが
法医学は,生体での鑑定が専門のため、はっきりとした答えはもらえませんでした。
~ではないか。~と思われる。
そして教授は「司法解剖を行わなければ、外見で判断する事は難しい」と
司法解剖で、いかに詳しい死因がわかるという事実を述べてくれました。
脳神経外科の教授に鑑定依頼
「大学病院で数多くのCTを目にしてきたが、
ここまでヒドイ頭部骨折をはじめて見た」
それが第一声でした。
美紗には、外傷といえるもの(頭部・顔面)にはほとんど無い。
前歯が8本無くなっていたのが、きれいな顔をしていたので
その言葉をすぐに信じる事はできませんでした。
その日は、全ての書類を預け、鑑定をお願いしました。
見て、絶対に美紗はトラックに『左からはねられた』
という確信を得る
私は「現代の法医学」という専門書とCT解読書を探し出しました。
専門書という事もあり、内容は本物の遺体などが多く掲載されており、
目を覆いたくなる程の本ですが、とにかく勉強しました。
遺体に遺されるタイヤ痕、引きずり痕・・・頭部外傷についてなど・・・
交通事故=事件性が無い
という捜査機関の考えは絶対に間違っている。
そして、解剖という選択肢すら与えられない現状は、
遺族への二次被害をもたらしている事に気付くべきである。
遺された家族が一番知りたい事・・・・
それは殺された家族の「死因」だ。
「事件性がない」との判断から{司法解剖}という言葉すら出なった。
当然ですが、私たち親も{司法解剖}などという言葉すら、頭に浮かばなかった。
その時に{司法解剖}の話が出て、自分たちが応じることが出来たかはわからない。
「これ以上傷つけないで欲しい」と断ったかもしれない。
「なぜ、こうなったのか調べて下さい」と言ったかもしれない。
どちらにしても、選択肢は与えられなかった。
いただいた写真を見る限りは、力の作用点は複数個所ありそうな気がします。
歯が折れていることと、前額部と眉間にかすり傷があること、
下口唇の挫裂創があることは、
顔の前側に何かがぶつかったことを意味しています。
鼻出血がありますが、この打撃の際に、
頭蓋底に縦骨折という縦の骨折が発生したのだと思います。
一方で、CTを見ると、左右側頭部に走る、頭蓋底の横骨折があるようにも見えます。
これは、左右の側頭部に何かが作用したことを意味します。
頭皮をはがして、どこに皮下出血があるのか検討すべき事例です。
外表のみで、一見すると、頭にはそんなに損傷はないように見えますが
(帽子でもかぶっていたのでしょうか?あるいは、
髪の毛がショックの緩和になったのかもしれません)、
CTなどを見れば、気脳症という頭蓋骨骨折がないとできない状態になっていて、
結構な外力が作用しているのは間違いないと思います。
轢過された可能性もありそうな印象を受けます。
死因は、脳挫傷の可能性もありますが、頚椎骨折の可能性も否定できません。
もちろん、心破裂も現段階では疑われるでしょう。」
また、顔面の内出血や腫れについてですが、即死、
もしくはそれに近い場合、出ないケースもあるそうです。
歯に関しても法歯学の見地からきちんと検視されていれば、
もっと具体的なことがわかったはずとのことです。
いずれにせよ、頭の損傷は、頭皮をはがしてきちんと調べなければわからないそうです。