美紗へ


事件前々日、前日も我が家恒例『焼肉&花火』をやったね。
美紗の好きな音楽を、大音量で流しながら。

夜、誠也をひざの上に座らせて見た花火・・・
お父さん大張り切りで打ち上げ花火あげてたね(笑)
その花火を、誠也と顔と顔とくっつけて、仲良く「きれいだね〜〜」と見ていた姿が忘れられません。
事件から5年になろうとしているけど、家族全員、まだ花火を見る事さえできません。
花火をしている家族を見るだけでも、まだ辛い。

2日連続大騒ぎしたせいか、8月31日は皆早く寝ちゃってね。
美紗と『じゃあ、女同士語り合いますかぁ』と色んな話をしたね。
初めてのことだったよね、夜二人で話をするなんて。いつも誰かいたもんね。

学校祭のこと、ちぎり絵作成担当だった美紗。
「明日こそピンセット忘れないで持っていかなきゃ」って。
でもそのピンセットがいつもの所にない!!探した探した・・・

そして、進学の話も少し。
中学卒業と同時に留学したいと考えていた美紗と、高校出てから留学と意見は
対立してたけど、親の意向を受け入れてくれて高校進学を決めてくれた事嬉しかったよ。
そして、英文科のある高校の話・・・受験資格まで5教科の平均が0・2足りない事が判明したけど
「英検2級あれば大丈夫みたい」「ホームステイがある学校がいいな〜」「でも制服のかわいいところは・・・」
とあれこれ話したね。

締めくくりは、やっぱり恋愛話。
母の記憶だと確か夏休み前に失恋して、父母の前で大泣きしてたよね?
でも立ち直りが早いのが美紗のいいところ?
のろけ話聞かされた。たくさんたくさん・・・

それがいつの間にか、父母の恋愛についての質問に変わってさ。母は真剣に答えてたのに
「ありえないから〜〜」「うそでしょ〜〜」と大笑いされたんだった。
お父さんが、寝ていた事をいいことに暴露話になってしまい・・・・・
「美紗、そんな二人の子供なの〜〜!!だから学校でもお笑い系なんだわ、美紗」と笑っていた顔。
「学校で一番若いんだよ、お父さんとお母さん。それ結構自慢!!」と言ってくれたね。

「さて、明日からまた学校だよ。もうそろそろ寝ましょうか?」
「そうだね」

翌日、犬の散歩済ませて、友達に電話していたね。
「じゃあ、またすぐ学校会おうね〜〜」と電話を切っていた美紗。
母が「ほら、7時10分になるよ〜〜時間大丈夫なの?」と声をかけ、
「あ、行く〜〜」とかばんを持ち、
靴を履いて左肩にかばんを掛けて
「じゃあ、行ってくるね」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


電話をしていた友達と学校で会うこともなく、「行ってくるわ」って天国に行った美紗。

病院から家に帰ってきて、布団に寝かされた美紗と一緒に寝た。
夢かもしれないと、目を閉じて少し休んだ。
でも目を開ければ信じたくない現実は変わっていなかった。
「美紗、そろそろ起きたら?」
「美紗は冗談が好きだからね。でももう冗談はやめて話しようよ」
「美紗、身体冷たいよ。寒いの?擦ってあげるね。ほらあったかいでしょ」・・・・・・
「どうすれば、何をすれば美紗は起きてくれるのよ!!!」
「美紗!いい加減に起きないと、お母さん本当に怒るよ!!!」

「パパ、美紗起きてくれないよ」
そこには涙が溢れている父がいて
「お母さん、美紗休めないよ。すこし休ませてあげようね」
そして、私の記憶はそこから所々消えている。今も思い出せない。

一晩中、初孫を失った祖父が美紗の布団の横で美紗を抱きしめて夜を明かした。
私は何をしてたんだろう・・・傷もほとんどない美紗の顔。
でも動かない。
不思議に思っていたことは覚えている。

翌日、美紗が使っていた化粧品を使って、美紗に化粧をしてあげました。
でも手が震えて口紅がはみ出しちゃって・・・ごめん。


その後、美紗の歯を見つけたと祖父母が息を切らし走って帰ってきた。
パパと二人、急いで現場行った。
車は通行していたけど、道路に這い蹲り必死に残りの歯がないか探した。
ない・・・。
草むらの中も這い蹲って探したけど無い。
その時目に付いた排水溝。
ふたを開け、上半身をもぐらせ、
自分たちも車にはねられるかもしれない状況で水をかき出し続けた。
そして見つけた4本の歯・・・・
握り締め走って家に戻り、美紗の手に握らせた。その直後、美紗は棺に納められた・・・
棺に入れられてしまった美紗の横にずっと家族全員が座っていた。

次の日、告別式で美紗がお寺に行く事に。阻止した。
一生懸命阻止した。でも連れて行かれてしまった。
徐々に美紗と離されていく状況にパニックを起こした。
通夜も告別式も覚えていない。
火葬場にも入れなかった。
むりやり「最後のお別れを」を火葬場の中に連れて行かれた。
「美紗が美紗じゃなくなる。いやだ!」と火葬させないように、棺につかまった。
わめきながら、泣きながら、怒りながら。
でも美紗は・・・・・ 
  私はまた火葬場を出て空を見ていた。
天国はあるのかな。一緒に行きたいな・・・・・。

「パパ、今日は暑い日だね」
「そうだね」
「今、美紗はもっと熱い思いをしてるんだよ」
「・・・・・・・・」

お骨を拾う事もできなかった。
1つだけ拾っただけで逃げた弱虫なお母さんでごめんね。

後から聞いたら、通夜に友達が400人以上来てくれてたんだってね。
中学校の全校生徒数よりすごく多かったって。
来てくれた友達に配るってジュース用意してたみたいだけでど、
200本で足りず、追加しても足りなかったってきいて
美紗の友達の多さにびっくりしました。遠方からもたくさん来てくれていたみたい。

美紗、紗穂がたくさん手紙書いて返事まってるよ。
紗穂さ、幼稚園のときから言ってた通り、4年制大学に行くんだってよ。
その後大学院??医者になるって言ってたけど、
お父さんが「医大は勘弁してくれ〜〜(泣)」ということで、
今は法律関係か放送関係の仕事を目指してる。

弁護士は被告の弁護もあるから嫌。
どんな理由があれ犯罪者の弁護はできないそうです。
検事は組織人丸出しだからイマイチ。なるなら、判事かなだって。
放送に携わりたい理由は、「もっと放送すべき事があるだろ」と感じたかららしい・・・
まあ、どうなるかご期待あれ。

誠也は、早く中学生になりたいって言ってる。
「美紗ちゃん中学校で勉強してるから、中学生になれば会えるもんね」って。
「勉強大変で帰って来れないんだもんね」って言ってるよ。

紗穂、自転車で通学できないんだ。怖いって。
視界に車がある限り渡れないって、あの交差点にずっといたよ。
美紗が守ってくれてる。だから大丈夫って言ってるんだけどね。

美紗に会いに来てくれる友達、今はもうみんな車で来るから母は心配で。
被害者にも加害者にもならないようにと釘さしてるよ。
その前は、隣の市から1時間以上掛けて、自転車で来てくれてた子もいたね。
・・・うふふ・・聞いたよ。二人の仲を(笑)
その子は、家に来ても美紗の写真をずっと見つめて話しなくてね。
美紗と話してたんだろうけど
2時間も話してるんだもん、二人で。
美紗は楽しかった?見てた母はちょっと照れたね。

美紗、今でもちゃんと家族といるって実感させてくれてありがとう。
美紗の使っていた香水の香りがしたり、風も無いのに美紗の好きなイルカの風鈴がなったり。
「ここにいるよ」って知らせてくれてるんだよね。

買ったばかりの花が急に真っ黒に枯れたり、
ろうそくの真ん中から火が吹き出したり
、落ちるはずのないものが落ちてきたり。
そういう時は必ず「危なかったね」という事件が起こったり、
普通なら大怪我するようなことでもかすり傷で済んだり。
教えてくれてるんだって思って、そういう時は家族で気をつけてますよ、ちゃんと。

おじいちゃんが美紗の前に座るたびに、本当に不思議な事が連発して、
美紗が何か知らせてるんじゃない?って
じいちゃんはどこも痛くないのに、病院に行ったら癌だって言われて。
みんなでびっくりしたよ。
あと半年遅かったら命に関わるほどの癌。
そう少し遅かったら、リンパにまで達していたって。
でも手術で直ったから、美紗も安心したでしょ。

美紗、産まれてきてくれてありがとう。
たくさんの幸せありがと。
そしてこれからもよろしくね。

これからも、みんなと一緒に年を取っていこうね。